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築約80年の民家にやってきた。 と言っても、この民家は別の場所にあった茅葺民家を移築されていた。 今回の再生で3回目の命を与えることになる。 途中屋根と外壁は、改修されているが内部は、ほとんど昔のまま手付かずであった。 |
玄関から中を見る、80年前と何一つ変わっていない。 今では、この家も老夫婦二人暮らしである。 昔は、この庭もたくさんの家族で賑わったことであろう。 私は、もう一度この家にたくさんの人が集まる民家に再生したい。 |
2階に上がると、全てが物置になっていた。 梁の真ん中に大きな窓が無理やり付けられていた。 この場所に、移築する前の茅葺民家の面影があった。 |
屋根裏を見上げると、この地に移築されてから作られた合掌の屋根があった。 先人達が墨付けの時書いた、「四寸上水」の字が残っている。 この屋根裏の合掌が、どのように再生されて行くかが楽しみだ。 |
いよいよ解体工事が始まった。 80年間家を守り続けた土壁が、柱梁にキズを付けることなく取り除かれる。 家を一軒壊すのではなく、古い民家を解った者でないと出来ない解体である。 これも一種の解体職人の技と言っても良いのではないか? |
玄関から中を見ると、壁は無くなり家の裏まで抜けていた。 丁寧に一つ一つ壁が落とされ、数日かかった解体が終わった。 |
もう少し奥に入って見ると、火処(クド)の煙で真っ黒くなった大きな梁が現れていた。 黒い梁に近づいて見ると、5ミリから1センチ近く煤がこびり付いていた。 現代の家には、何年経っても変化が無いが、古民家には生活をして使い込んだ家と言う変化が見られる。 |
基礎工事が始まった。 家の中に重機が入り込み土を掘る。 今回は、長石に鉄筋アンカーを打ち込み、長石の下にコンクリートを流し込み補強をする。 そして、鉄筋を格子状に組み、土間全体にコンクリートを流しベタ基礎を作る。 |
ベタ基礎のコンクリートが流され、家の中に布基礎が出来た。 以前は、玄関中庭だったところだが、この基礎でどのように変わって行くのであろうか? |
いよいよ、木工事の始まりである。 虫が食べたり、根元が腐った柱は、新材の桧柱に入れ替えられた。 あの新しい布基礎の上にも土台が入れられ、新材の桧柱が立ち、しっかりと家が補強された。 |
悪い柱は、全て入れ替えられた。 どうしても入れ替えられない大黒柱や通し柱は、悪い分部を取り除き新材の柱で根継ぎをして補強をする。 これも大工さんの手間の掛かる細工の一つである。 |
柱やヌキ板が全て入れられた。 そして、杉板が合掌の勾配に合わせて張られている。 新材の杉板が、古材の合掌に溶け込むように見えた。 |
天井に杉板が張られる後から、左官さんが小舞を組み始めた。 3センチ位に割った竹を縦横交互に組み、シロ縄で編む。 シロ縄とは、「昔は農家の屋敷には必ずと言って良いほどシュロの木が植えてあり、そこから取れる茶褐色の繊維を使ってシュロ縄を編んだ。シュロ縄は長持ちするので様々な農作業の場や垣根などにも使われた。」 |
小舞が組まれ、その上に荒壁の土を塗る。 左官さんが、鏝板の上に土を載せ、一鏝づつ丁寧に土を付ける。 まるで土壁が、小舞竹に吸い込まれているように見えた。 |
小舞が組まれ、荒壁塗りが完了した。 昔の柱と梁、新材の柱と土壁が旨く調和が取れ仕上がって行く。 これが、どのように仕上がるのか、まだ解らない。 |
屋根裏の杉板を張り終えた大工さんが、床を張り始めた。 玄関先からホールを見る。 玄関框と式台は地松を使い、大引きが入れられる。 ホールの奥は台所、奥を覗いて見ると・・・? |
台所の床に何か黒い筋の入ったものが敷かれている。 これは、遠赤外線ヒーターです。 この上に厚さ30ミリの杉のフローリングを敷き、ヒーターを入れると杉の空気層が温められ、快適な冬も迎えられる。 |
台所の床も張り終わり、残りは玄関ホールだけになった。 新建材のフローリングを張るように簡単ではなく、柱をカギ一枚一枚丁寧に削り合わせる大工さんの姿があった。 杉のフローリングは、もう少しで張り終わる。 |
大工さんは、床を張り終えた。 一息つく間も無く階段、飾り棚など次々と作り、造作が完了した。 |
造作が終わると、古い柱や梁に何か塗られていた。 良く見ると、古くて白くなった梁が深みのある黒い梁へと変身している。 これは、古材に菜種油を塗り、昔の色を甦らせているのだ。 |
そして、屋根裏天井の杉板に柿渋を塗る。 柿渋は、原液を塗る。 原液を塗ることで、塗った端から深みのある色に変わって行く。 |
菜種油と柿渋を塗り終えると、左官さんが中塗りをする。 この中塗りで仕上げも決まるため、左官さんも真剣な表情で塗っていた。 中塗りが、乾き仕上げが出来るまで外壁を仕上げることにする。 |
外に出ると、電気屋さんと左官さんが作業をしていた。 電気屋さんは、今まで露出だった電線を綺麗に張り替える。 左官さんは、既存の壁に下地を作っていた。 この壁がどのように仕上がるのであろうか? |
外壁が仕上がった。 あの壁が白壁に大変身した。 そして、大工さんが屋根に上がる 準備をしている。 いったい次は、何が始まると言うのか? |
何と言う事であろう。 中の梁が透けて、見えていたアルミサッシの窓が柿渋の塗られた木の格子を取り付けたことで、まったく見えなくなり白壁とマッチした外壁の出来上がりである。 |
外部に面した通路に行くと、左官さんが何かを敷き均し散水をしている。 これは、自然土を使った舗装材。 普通は、セメントを塗るのであろうが? この舗装材を塗ることで、古民家の雰囲気を壊さない通路となった。 |
そして、いよいよ内壁の仕上げが始まる。 仕上材は、ワラの入った珪藻土。 良く壁を見ると、鏝ムラ一つ無い仕上がりだ。 |
数日かかり、見事に壁が仕上がった。 黒く輝く大きな梁と珪藻土の壁、再生前の面影は、まったく無くなった。 杉で作られた建具も入り、いよいよ最後の仕上げに入る。 |
床の養生も剥された。 部屋一面に張られた杉のフローリングに柿渋が丁寧に塗られる。 日が経つにつれて濃いさを増す柿渋の色。 これで全てが完成した。 |
台所に入り 見上げると、流しの上は、吹き抜けとなっている。 天井は無く、圧迫感を感じさせない台所となっている。 現代の家には無いとても贅沢な台所に仕上がっている。 |
玄関ホール兼居間には、昔この家に葺かれていた箱棟の鯉の瓦が壁に飾られた。 この鯉は、何年も縁の下に転がっていた。 このままでは、歴史のある鯉が壊れてしまうと思い、吹き抜けの壁に飾り泳がすことにした。 |
そして、玄関ホール兼居間全体を見ると、吹き抜けになっている。 あの以前見た玄関がこのようになるとは、想像もしなかった。 |
外部も完成した。ただ単に改築されただけの大坂峠の家が、やっと古民家として甦った。 |
築80年の大坂峠の家、これから先何十年と生き延びて欲しいと願い、再生された門の扉をゆっくりと閉めて帰る。 |